作品特集二十首連作

ルートから外る

ぬばたまのアスファルトより一匹の黒揚羽蝶立ち上りゆく

日ざかりのだらだら坂をくだりゆく肉屋のならびに義肢製作所

図書館への近道にあらずこの路地は住宅街をゆるくカーヴす

海抜が低くなりゆく坂なかば赤白青を吸い上ぐる筒

朝刊に昭和の日付ありそうな床屋に羽衣ジャスミンの咲く

サビ猫が光の中に伸びすれば金粉蒔かれたるごと光る

T字路を折れればふいに切岸となり下りゆくことをためらう

異音立て駱駝のように唾をはく男の姿じょじょに現わる

朝と夕古本屋さんのおばあさんと老ブルドッグが立つ道に出る

いくとせも同じ道しか通らざり坂多き町橋多き町

ルートから外るがよろし にわたずみ空をたたえてわたしを映す

ほの白くコンクリートのきだはしに腹をさらして蝉が死におり

光りいる枯れ葉を拾い幼子はくるんくるんとうらおもて見る

シネコンの帰りに橋を三つ越うあかあおみどりの欄干に触る

追い追われ全速力の自転車で小さき橋を子らがかっ飛ぶ

ハンドルをぶるぶるさせて自転車をこぐおみなごがしんがりにいる

失うものなんてないじゃん。欄干に背(せな)を預けて男が笑う

遊歩道がかつて水路でありしこと誰かの記憶から転写さる

入射角小さくなりてトラ猫の背の半分が黄金である

ハンカチとタバコを持ちて着流しのひとが黒船橋を越えゆく





方向音痴である。徒歩10分のところをどこをどうさまようのか、1時間以上かかってしまったりする。それで決まった道しか歩かない傾向がある。
坂の多い町に勤めて12年、橋の多い町に住んで7年とずいぶん長く居るのだけれど、見知った道しか歩かずに過ごしてきた。
この夏、どちらの町でも、ルートから外れて歩いた。どちらもやはりけっこう迷ったのだけれど、小さな発見がたくさんあった。


その後、図書館への近道を発見した。なんと背中合わせ(と言うの?)の建物の中を通り抜けて行くのだった。近道ではなく抜け道だ。
老ブルドックは死んでしまったらしく、今、おばあさんは子犬を連れて歩いている。
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by mizuki_nim | 2009-12-27 20:47 |