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肉筆

多紀さんのゑがきし柿を掛けをれば秋のひかりが部屋ぬちに満つ

かくかくとブロック体で書かれゐき名刺の裏の父の筆跡

地下水のやうだ記憶は。丁寧に字を書く人でありしよ父は

台風の過ぎたる朝のキャンパスに散らばつてゐるぎんなんを蹴る

鷹女ならば種無柿を選らばむと橙色の秋果購ふ

若葉集の詠草用紙伸ばしゐて歌の仲間の肉筆を見る

おぼろなるさみしき夢を沈ませて種無柿をつるりと食べぬ



(塔1月号 小林幸子氏選)

by mizuki_nim | 2013-02-09 19:39 |