カテゴリ:塔( 82 )

ほんたうは

滑るほどつるつるなのかキャンパスの百日紅の幹に触れたり
ほんたうは君を見てゐつ横がほの向かふに上がり崩るる花火
屋上への扉は施錠されてゐて空つてこんな遠かつたつけ
一面の夕陽であつた。そののちの灯をともす窓、夜うつす窓
まぶた閉づわたしが言はぬことがありあなたが言はぬこともあるらむ
受入印押して並ぶる雑誌架の9.11、9.11
細きひものほそきヒールのサンダルを履かずに箱にしまふ夏ごと
君のゐるところに雨が降つてゐて折りたたみ傘かばんに入れぬ

(12月号 山下洋氏選)

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by mizuki_nim | 2015-02-02 21:58 |

五年生存率

つづまりはわたしの視線 席を立ち泣く人の背を追へるカメラの
坂道の細き歩道をゆらゆらとのぼる 時をり日傘かしげて
あと一年経たば五年生存率56%に入る
スカートをふくらませつつをみなごがペダルぐいぐい踏む上り坂
大きさが四種類ある町会の半纏購入案内貼らる

(10月号 吉川宏志氏選)

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by mizuki_nim | 2015-01-17 15:55 |

みづのゆくへ

県境に分水嶺のあり川の流れが変はるといふアナウンス
大山の右にあらはれ昨夜(きぞ)買ひし天然水はあの山のみづ
窓ぎはに頬杖をつくわがかほを透けて若葉のみどりが流る
降つてきた。手のひらで頬ぬぐふとき海にゆかない雨粒これは
見えずとも分水界のあることの、さやうならとも言はずに別る
結局はひとりなんだよ海面におのれの影を落とす飛行機

(9月号 栗木京子氏選)

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by mizuki_nim | 2015-01-15 20:39 |

戦ぐ

はなみづき葉桜さやと鳴りゐるをそよぐといふは「戦ぐ」と書きぬ
バスに旗ついてるよつて子が言ふに日の丸ふたつ動きだすなり
風を受け旗が波打つ祝日を父は「旗日」と言つてゐたつけ
そのまなこにひかり映して少年がカラシニコフといふ銃を持つ
知らなくともよいことが違ふ四十五歳(しじふご)のわたしは銃の重さを知らず
すんすんと職人の指より生るる和紙のこよりのすこやかなこと

(8月号 黒住嘉輝氏選)

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by mizuki_nim | 2015-01-13 19:54 |

お花見

それぞれに視点が違ふ公園にひとと見上ぐる花のよきかな
鳥の名をネットに問へば羽づくろひ終はらぬうちに応え返り来
「バン」「鷭」とスマートフォンに顔寄するヒトを見つめる鷭といふ鳥
ここまでの運転士さんが座布団をわきにはさみてホーム歩めり
手のひらに溶けざるがゆゑこの雪は風に吹かれてわたしより発つ
いつかくるわかれのことをにじませて君のメールは明るく終はる

(7月号 吉川宏志氏選)

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by mizuki_nim | 2015-01-09 21:30 |

くわくこうが鳴く

今朝もまた電子レンジをいくたびも使ふ電気が東京にきて
悼むとも偲ぶとも違ふ(めめんともり)父がひよつこり会ひに来るのだ
当たり前のやうにこたつに父がゐる五十七歳のかほして父が
その声を忘れたるゆゑわが夢に微笑むのみの父であること
駅名を確かめながら乗つてゐる 曙橋にくわくこうが鳴く

(6月号 花山多佳子氏選)

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by mizuki_nim | 2015-01-08 21:29 |

雪が降る

腰に足に電気かけられつつ話すゆふべの恵方巻きのことなど
手紙はもう結構ですと天に言ひきざはしのかどに靴底こそぐ
さざんくわの咲きゐる枝の両腕を空にさしあげ雪だるまをり
陽の当たる道をあゆめば側溝に雪解の水のたえなく流る
廃業の<ラーメン誠>に降りしのちあたりにかたく雪は凍りぬ
雪だるまづくりが下手になつてゐてなんてつまらぬ人生だらう

(5月号 池本一郎氏選)

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by mizuki_nim | 2014-12-31 22:00 |

冬に

遠吠えのやうなるものが道をゆく「火の用心」と聞こえくるまで
帰省するバスの窓より見る冬田アップルパイを膝の上に置き
数日の帰省にあれど新しき羽毛布団がわがためにある
やみくもに食べたくなつて買ひにゆくベーカリーにはカレーパンあらず
永田家に生る柚子のこと思ひつつ八百屋の棚に香る果を選る
前門の虎後門の狼や朝の街路に鳩が回りぬ

(4月号 栗木京子氏選)

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by mizuki_nim | 2014-12-30 21:56 |

しつぽ

残響を抱くがごとき夢でありうしなふことに慣るる仕度を
「痛みとは体の悲鳴」いまひだりあしが絶叫してゐるならむ
ちこちこと歩幅ちひさく歩めるをかつてのわれが追ひ越してゆく
つんつんの葉つぱはさうだ、生垣のひひらぎの花咲きゐるに触る
どこからが快楽(けらく)だらうかぐるぐると首にマフラー巻きつけながら
尾骶骨痛し痛しと歩きゆくしつぽ生えむとするなら許す
とほくとほく枝をのばせる木のもとに<淡路のたまねぎパン>を食べをり
羽根ペンのやうなる雲の流るるに青信号をひとつふいにす

(3月号 三井修氏選)

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by mizuki_nim | 2014-12-29 21:56 |

白雨

前をゆく男の上着ぽつぽつと雨の太さに色の濃くなる
レターパック一枚買ひにゆく昼の、ばばばばばばと傘たたく雨
雨はいい、流してくれる。透明の傘をひらきてあなたが出でぬ
窓際にきみが書きたる絵葉書がポストに届く―雨が降つてゐて
肉筆でJAPANと書かる異国には異国の雨のにほひあるらむ
午睡より覚めて暗しと思へるに雨が降り初め縦横無尽
傘持たぬひとが駆け出すやうに鳥が嵐のなかを押されつつ飛ぶ

(塔2月号 真中朋久氏選)
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by mizuki_nim | 2014-04-29 21:47 |