カテゴリ:塔( 82 )

字母を並べむ

三月のその日大きく揺れたるに活字棚より字のなだれけり
印刷機はいくたび波に濡れにけむ活字はみづに漬からざりしが
廃業ののち三階の字はすべて産業廃棄物となりけり
とりあへず持つて帰れるだけの字を土嚢袋に詰めたると聞く
ながらへたる活字がつづる詩を読みぬ「足りない活字のためのことば」を
地下鉄に運ばるるわがうちがはに字母並べむとするわれのをり
抽斗を探れば出でぬ「白」「石」といふぎんいろの金属活字

(塔1月号 花山多佳子氏選)

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by mizuki_nim | 2014-04-13 21:32 |

無花果

無花果を友と食べしは去年(きぞ)のことくろぐろとせる果実購ふ
耳たぶにしろがねの羽根ゆらせつつ若き男が文庫本読む
帰りゆくひとに交じりて乗る電車うすべにいろの雲が輝く
面会のカードを書きて守衛から面会証のシールをもらふ
ああ月がきれいですねとイヤフォンのコードほぐれぬまま歩きだす
暮らしてはゆけない土地のうつしく望遠鏡に見たる月面

(塔12月号 吉川宏志氏選)

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by mizuki_nim | 2014-04-06 14:18 |

(UNTITLED)

月曜のあさ音をたてふるなかに傾ぐる傘の骨がきしみぬ
半地下のカフェの窓辺にさまざまの脚がすぎゆき ストロー回す
フルートの音が聞こえてももうわれは笹井宏之とすれ違へない
歌のことばひとつひとつがたましひのかけらにあれば君に触れゐる
天からの散水を待ち祖母(おほはは)は今日も畑に出てゐるといふ
母の家で寝転びながら本を読み八月十二日が終はるを

(塔11月号 真中朋久氏選)

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by mizuki_nim | 2014-04-06 14:15 |

ほうたる

暗闇がふかぶかとある抽斗を下段からあけ浴衣選びぬ
このつぎは螢に生まれこむと言ふ橋の上(へ)に立つ君の横顔
暗がりにみづは見えねどほうたるのひかりが揺らぎ水面(みなも)とわかる
あぢさゐの葉かげに螢いりゆけばほとりにひかる木のあらはれぬ
ルシフェラーゼ、と言へば笑へる君のゐてひとつの歌をともに抱きぬ
ほうたるを包まむとしてひとの手はいともたやすく離れてしまふ

(塔10月号 小林幸子氏選)


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by mizuki_nim | 2014-04-06 14:13 |

そのさきに夏

「あつてはならないこと」でできてゐるたぶんこの世の半分ほどは
ライトバンのドアにキンデラハイア、ああかろさんのかほがほかんと浮かぶ
なかなかにチョコ味が出(で)ずサクマ式ドロップスの缶いくたびも振る
紫蘇ジュース作りたるわが指先に渋き色せる指紋浮き出(い)づ
氷砂糖日ごとに溶けてゆきたるを梅のかをりのそのさきに夏
たとへば火、絶やさぬことを思ひゐる手のひらの丘指で押しつつ
都営線のホームに鳥の声聞こゆうつしみ持たぬ平板なこゑ

(塔9月号  小林幸子氏選)

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by mizuki_nim | 2014-04-06 14:09 |

盲点

星が生れ星消ゆるごと視野計のなかに明滅するひかりあり
ひかつたらおしてください。いくたびも撃ち落とすやうにボタン押したり
薄暗き部屋に入るとき眼科医の眼鏡のふちがひかりを放つ
モニターにわが盲点の(比喩でなく)映されゐるをかほ寄せて見る
執行をされたる人を呼ぶときの苗字に続く「元死刑囚」
その差異をわれはさびしむかたはらにをれども同じものの見えぬを

(塔8月号 花山多佳子氏選)

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by mizuki_nim | 2014-04-06 14:06 |

沈むな

かたはらに桜湯の湯気ほんのりとさみしい人のすむ歌集読む
湯に花のゆるく開きてゆきたるにうつはの白にさくらいろ差す
蔵前でお相撲さんが乗り来るに鬢付け油の香のやはらかし
ひとひらが渡り廊下に落ちてをり名残りの花を手帳にはさむ
ありがたうたのしかつたと君からのメイルをしばし手のなかに持つ
むばたまの夜をうつせる水がきてみづを掻きだす まだ沈むな

(塔7月号 吉川宏志氏選)

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by mizuki_nim | 2014-04-06 14:03 |

(untitled)

靴下のすつぽぬけたるあきちやんの足裏ちひさく土ふまずあらず

おかあさんのおにぎりが好きをみなごが丸きおにぎりリュックから出す

フジテレビが湯島の梅を撮りにきしことを弁当食べながら聞く

前のことはおぼえてをらず福島の長ねぎ常に安く売られて

直ちに健康に影響はない 言はれてわれら二年(ふたとせ)になる

原爆の三十倍の威力といふ隕石落下の例へがきらひ

ゆめぴりかといふ名見るたび朗らかに笑ふ短歌の友を思へり

ゆめぴかりと間違ふ母を正すとき愛知のぴりか嬢が浮かびぬ


(塔5月号 池本一郎氏選)
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by mizuki_nim | 2013-07-03 21:50 |

枯野いづこ

売店の前のベンチにジャムパンを食べ午後からの診察を待つ

うつむきてをんなが並ぶ長椅子に座るちひさき番号握り

「来なくていい」と告げられたきに担当医は半年先の日付を選ぶ

ポケットに枯野を折りたたむ歌のありあなたには草原がある

けふ歩く渡り廊下に六花より水粒(みつぼ)となれる音絶え間なし

ながくながく上向かぬままきたるかな灯りを換へて頚の痛みぬ

ささくれ立つ唇に触るわれが火を打つべき枯野いづこにかある


(塔4月号掲載 栗木京子氏選)

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by mizuki_nim | 2013-05-19 20:29 |

五十七歳

キャスターの「五十七歳でした」と言ふ声流るるに画面見にゆく

ああと声が出でてしまへり死に向かふ速さを誰も知らずに生きて

享年が父と同じであることを母はテレビに向かひ言ふらむ

立ち止まるひまなき朝にあの居間の色の褪せたる遺影をおもふ

二十代のわれには遠き五十七歳(ごじゅうなな)いまなら少しわかる はやいな

マンホールの蓋を押し上げくるやうなおもひにわれはいつも驚く


(『塔』三月号  黒住嘉輝氏選)
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by mizuki_nim | 2013-04-09 21:55 |