カテゴリ:塔( 82 )

見返り坂

ここまででいいと言いたる人の表情(かお)よく見えざりき西日照るなか


もうきっと振り返らぬと思いしにあなたが坂の上で手をふる

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by mizuki_nim | 2010-09-24 19:50 |

『塔』9月号掲載歌

発言をするとき裕子先生のまなざしに遭うことぞうれしき(東北集会)

月の声ききたかりしと真裸で空見上ぐれど星ばかりなり(かみのやま温泉)

おきなぐさのほわほわの毛にさわりつつ風を待ちいる午後のベランダ

「あそこ」とう声にテレビの青空へ顔近づけてソユーズ探す

ぐううんと勝手に視界のまわりいてやがて降りくる宇宙船見ゆ


(池本一郎氏選)
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by mizuki_nim | 2010-09-23 21:01 |

『塔』8月号掲載歌

近鉄の電車の扉のんびりと開きゆくまで人は待ちいる

わたしたち歩くスピード速くない?東京でなら普通だよねぇ

大き河ながるるごとくみやこには大和時間というがあるらし

ひと筋の雲がふもとに伸びてゆく護法童子の疾走ならむ

山寺のお堂で迷子になりたるに毘沙門天のお使いに遇う

寅の子のあたまはつるり撫でられて午後のひかりを金色に照る



(吉川宏志氏選)
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by mizuki_nim | 2010-09-04 19:07 |

『塔』7月号掲載歌

<女>とう性考えてまだ温き牛タン弁当しこしこと食む

駅まえで夜桜見上げ少しだけせんなきことを考えており

川面へとさくらの枝のなだるるに和船のうえのひとの手が伸ぶ

花を見て帰ると友が駅ひとつ乗り越してゆく四月の電車

「桜色、山駆け登る」という写真なみのさんちがこの中にある


(花山多佳子氏選)
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by mizuki_nim | 2010-08-08 13:45 |

『塔』6月号掲載歌

読み終えし新聞ぎゅぎゅっと丸めいて警棒のごと持つ男いる

メンコ打つようにPASMOを打ちつけて改札抜ける初老の男

地下鉄の階段のぼれば白石家式場という看板に遇う

交差点みおろしながら食べている春のてんぷらわずかに苦し

水脈(みお)をひくテールライトのあかるさがとぎれぬ街に春雨の降る

「元気そうでいいね」と三月(みつき)に一度会う医師があかるく言いくるる春

本を持つ手のかたちにて万葉集読めと言わるる夢より覚めぬ


(池本一郎氏選)
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by mizuki_nim | 2010-08-08 13:44 |

塔5月号掲載歌

市役所が手すりをつけてくれたとう平屋に祖母がひとりで暮す

大叔父の死が地方紙の記事となり大往生にあらざるを読む

酔えばなお聞きとることの難しき山形弁がもう聞けぬのだ

弟を亡くしし祖母に電話口で元気かなどと言ってしまえり

一滴も涙が出ないと祖母が言うなんでだろうねと張りなき声で

警察から戻され次第密葬をすると聞きおり通夜はあらざり

終わりました。仕事帰りにケータイを開けば母よりメール一行

いつからかどこからか死はあわられてわれの周りをゆらゆら踊る


(三井修氏選)
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by mizuki_nim | 2010-06-06 21:01 |

『塔』4月号掲載歌

おじいさんが両足ひろげ一駅を立ちて車窓の広告見入る

夏、京都からの帰りに見しひかりあれは熱海の花火でありぬ

楽しかる時間とおなじはかなさに花火は夜に溶けてゆきたり

はかないから美しいのだ。はかなきを美しきものとして記憶は

これほどに見られしことはありますまい電車の窓に貼らるる花火



(栗木京子氏選)
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by mizuki_nim | 2010-04-30 22:06 |

『塔』3月号掲載歌

行き先を巻き上げている路線バスが右折するまで眺めてしまう

日にいくど死を思うだろう噴水の水が循環しているように

ふっという音の聞こえて噴水は間欠泉のちから象る

しろがねの空よりひかり落ちてくる今日はビニール傘ささむかな

腹のうえに猫乗せおらばゆんわりとわが水たまりぬるみてゆかむ

玄室に射しくるごとく落日が廊下を照らす一時(いっとき)に遇う



(吉川宏志氏選)
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by mizuki_nim | 2010-04-25 22:01 |

ひかりを運ぶ

全摘を決めし日ひとりクリスマスイルミネーション眺めに行きぬ

臓器ひとつどうってことないわれはまだひかる時間の真ん中にいる

東京の空に見つくる流れ星「万一」という事例を思う

介護者の欄に母の名記すときわれは不肖の娘と思う

手術前の説明をする担当医は最上級の悲観主義者(ペシミスト)なり

カーテンで遮られたるプライバシー人が通ればひらひらと揺る

しょうが焼きのレシピを聞きて帰りゆくひとのスーツの丸き背が見ゆ

縦に切ると言われたるわが腹の上に美容ローラー転がしており

幾重にも本人確認されこの名ほんとうにわれの名前だろうか

絶え間なき痛みに眸を閉ずるとき闇に獣の目が光りいる

巻きひげを点滴台に絡ませるごとく廊下を進みてゆけり

看護師に構わるること減りゆきてシーツのほころび目を見つけたり

凸凹の町にBB弾のごと走る子どもが多きこと知る

窓際のポトスが毎日伸びていて通りがかりに触ってしまう

灯る火のあらざる洞にわが卵はいまもひかりを運びいるらむ

空白の時間を欲りて駅前のコーヒーショップの椅子に腰掛く

やわらかき首もてわれを見つめいるみどりごの目に映るひかりよ

地上口に切り取られいる空のなかエンドロールのごと雲流る



(塔2月号 特別作品掲載 小林幸子氏選)
特別作品・・・15首以上の公募作品
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by mizuki_nim | 2010-03-07 21:51 |

『塔』2月号掲載歌

今日はもう終わりですよと九時半の大学病院玄関に佇つ

晩秋の午前のひかり溜めているスワンボートの整列が見ゆ

あっちいけ 池をのぞきて繰り返すグレーのジャンバー着ている男

無意識に足を早めているわれを魔女の目つきで見ている女

まだ寝ぼけ眼の街で「塔」を読むときどきブレンドコーヒー飲みて



(真中朋久氏選)
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by mizuki_nim | 2010-02-28 21:08 |