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おきなぐさ

「うずのしゅげを知っていますか。」
こんな書き出しで始まるものがたりがあります。宮沢賢治の短編『おきなぐさ』です。

このお話を、歌人の伊津野重美(いつのえみ)さんの朗読で聴く機会がありました。4月4日のことです。
その時のわたしはおきなぐさを見たことがなかったので、「黒朱子(くろじゅす)の花びら、青じろいやはり銀(ぎん)びろうどの刻(きざ)みのある葉(は)、それから六月のつやつや光る冠毛(かんもう)」という賢治の言葉から、なんだか不思議な外見の植物を思い描きました。

この頃に、5月にある塔の東北集会やオプショナルの斎藤茂吉記念館のツアーにも参加することを決めました。茂吉記念館のツアーに参加すると記念におきなぐさをいただけるという話を聞いたのが、重美さんの朗読を聴く前日のことでした。

当日ライブのプログラムに宮沢賢治の『おきなぐさ』が入っていて驚きました。時々こういう偶然が起こることがあって、世の中の不可思議を感じたりします。


山形県上山市の金瓶(かなかめ)というところに斎藤茂吉のお墓があります。お墓のちょっと手前におきなぐさが植えられていました。初めて見たのにすぐそれとわかったのは、本当に賢治の言葉通りだったからです。六月ではなかったけれどつやつやの冠毛が伸びているものもありました。

(前略)
 「ええ、ありがとう。ああ、僕まるで息がせいせいする。きっと今度の風だ。ひばりさん、さよなら」
 「僕も、ひばりさん、さよなら」
 「じゃ、さよなら、お大事においでなさい」
 奇麗なすきとおった風がやって参りました。まず向こうのポプラをひるがえし、青の燕麦(オート)に波をたてそれから丘にのぼって来ました。
 うずのしゅげは光ってまるで踊るようにふらふらして叫びました。
 「さよなら、ひばりさん、さよなら、みなさん。お日さん、ありがとうございました」
 そしてちょうど星が砕けて散るときのように、からだがばらばらになって一本ずつの銀毛はまっしろに光り、羽虫のように北の方へ飛んで行きました。そしてひばりは鉄砲玉のように空へとびあがって鋭いみじかい歌をほんのちょっと歌ったのでした。
(後略)  宮沢賢治『おきなぐさ』より抜粋


金瓶のおきなぐさもまもなく飛んでゆくのだなと思い、「お大事においでなさい」と心のなかで言いました。

それから、茂吉ふるさと記念館で小さなおきなぐさをいただきました。地元のおじさんが「まだ(花が)咲いているのがいいよね」と言って選んでくださったのですが、次の日、三つのうち二つは銀色の房だけになっていました。
近いうち、わたしが出かけているときに飛んでいってしまうような気がします。小さなベランダから東京の風にうまくのれるでしょうか。

さよなら、お大事においでなさい。

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by mizuki_nim | 2010-05-18 19:48 | 徒然につづる