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塔(09年2月号)歌集探訪

紺野万里歌集 『星状六花』 短歌研究社 

 「未来」所属の著者の第二歌集。二〇〇二年から六年間の三五五首を収める。あとがきによると「星状六花」とは雪の結晶の形。

  みどり児のあしたの夢に降りをらむ星状六花この世のひかり

  鼓型・樹枝状六花・角板と読み解かれゆく天からの手紙

  待つといふ力を恃み雪に耐ふ雪をそれでも嫌ひになれぬ

 「嫌ひになれぬ」という雪をミクロの世界から見ているのが印象的だ。雪の結晶以外にミトコンドリア・イブの歌などがあり、科学に造詣の深い方なのだろうと思った。
 ミクロから一転、時空を俯瞰する歌に、著者の持つ尺度の幅広さがうかがえ、感嘆した。

  見つめあふしまらくを鹿とヒトでなく大地溝帯の二匹のやうに

  手のひらに受ける化石のしづもりよユラ紀の未来といふを預かる

 また、拉致、原発、戦争など現代社会を鋭く静かに見つめた歌が数多くあり、社会詠の視点について考えさせられた。 

  砂浜に足跡つけつつ戻りくる拉致されなかつたひとりの影が

  「イマジン」流れし終月八日夜もんじゆ内部に積もりたる雪

  東京の電気は止まつたのだらうか刈羽原発うごかぬ夏に

  戦争しか知らない子供のゐる国の上空をゆくイヤホーンをして

 「東京の電気は止まったのか」と問われ、どきりとした。
 他に福井在住ならではの行事や自然の歌にも心惹かれる。

  魚釣りで遅刻したとふ神に今日つらなりて奈良に水を送れり

  あさぼらけ海に発ちゆく天龍をはろばろ慕ひて九頭龍の川

  大いなるくぐひが空に見ゆるまで星まつことは言問ふに似て

 端正な文語と古語に背筋が伸びた。
 第三十四回現代歌人集会賞受賞。
                                                
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結社誌に半ページの歌集紹介の文(書評というには拙すぎる)を書かせていただきました。

by mizuki_nim | 2009-02-22 13:39 |